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東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)181号 判決 1978年8月29日

東京都渋谷区代官山四丁目一番一三〇一号代官山マンション

原告

西村翠

右同所

原告

西村純一

右同所

原告

西村典子

右同所

原告

西村正之

右同所

右三名法定代理人親権者母

西村翠

右原告ら訴訟代理人弁護士

小林辰重

東京都渋谷区宇田川町一番三号

被告

渋谷税務署長 伊藤貢

右訴訟代理人弁護士

杉浦栄一

右被告指定代理人

島田三郎

鈴木正孝

岩田栄一

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告らに対し昭和四四年七月五日付でした相続税の各更正処分及び過少申告加算税賦課決定(いずれも昭和四五年五月一一日付裁決で一部取り消された後のもの。)のうち、課税価格の合計額を七三七二万九〇〇〇円として計算した額を超える部分は、いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外西村正が昭和四一年一月八日死亡し、原告西村翠は妻として、その余の原告及び訴外西村公一はいずれも子として、それぞれ右正所有の財産を相続した。

2  原告らは、右相続にかかる相続税につき別表Aの申告欄記載のとおり申告したところ、被告から同表更正欄記載のとおり各更正処分及び過少申告加算税賦課決定(以下一括して「本件各課税処分」という。)を受けたので、これに対して異議手続を経て審査請求をしたが、同表裁決欄記載のとおり一部取消しを得たにとどまった。

3  しかしながら、本件相続税の課税価格の合計額は七三七二万九〇〇〇円であり、本件各課税処分は課税価格の合計額を過大に認定した違法があるので、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び同2の各事実は認めるが、同3の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件相続税の正当な課税価格の合計額は、原告らの申告した相続財産の価額の合計額に、申告漏れ等のあった相続財産の価額二五三八万四五二四円を加算した額によって計算した九六五五万九〇〇〇円(千円未満切捨。昭和四五年法律第八号による改正前の国税通則法九〇条一項参照)である。したがって、この範囲内でされた本件各課税処分は、いずれも適法である。

右の加算した二五三八万四五二四円の内訳は、次のとおりである。

(一) 借地権の申告漏れ 三〇万六六六六円

(二) 借地権の評価誤謬 三〇八円

(三) 家屋の申告漏れ 二三〇万五〇五〇円

(四) 株式の評価誤謬 二二七七万二五〇〇円

2  右のうち、争いのある株式の評価誤謬二二七七万二五〇〇円の算出根拠は、次のとおりである。

本件の相続財産のうちには、被相続人正の主宰していた株式会社渋谷西村総本店(レストラン、フルーツパーラー等経営。以下「西村総本店」という。)の株式(以下「本件株式」という。)五〇〇株が含まれていたところ、原告らは、本件株式について一株当たり六万五五二七円、総額三二七六万三五〇〇円と評価して申告したが、その正当な価額は、以下に述べるとおり、一株当たり一一万一〇七二円、総額五五五三万六〇〇〇円である。したがって、原告らの申告額と右正当な価額との差額二二七七万二五〇〇円が株式の評価誤謬額になる。

(一) 相続税における株式の価額の評価については、相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二五日付直資五六、直審(資)一七国税庁長官通達、以下「基本通達」という。)にその方法が定められており、これによると、西村総本店のように同族法人であって相続税の株式評価上は中会社に属する会社の発行株式で、取引相場のない株式の場合には、類似業種比準方式によって求めた額の七五パーセント相当額と純資産価額方式(純資産価額は、帳簿価額に基づくものではなく、相続税評価額によって計算したもの。)により求めた額の二五パーセント相当額との合計額によって評価することとされている。右の類似業種比準方式とは、評価しようとする株式の発行会社と事業の種類が同一であるか又は類似する上場会社の株価に比準してその株式の価額を求めようとするものであり、具体的には、事業の種類が類似する上場会社の平均株価に、評価しようとする会社の配当金額、利益金額、純資産価額(この場合は帳簿価額による。)などが類似会社における配当金額、利益金額、純資産価額などに占める割合を乗ずる方法によって、評価しようとする会社の株価を求めるものである。また、純資産価額方式とは、評価しようとする会社の保有資産の財産的価値(正味資産の価値)でその株式の価額を評価しようとするものであり、具体的には、評価しようとする会社の純資産価値を相続税評価額によって求めた金額から、その会社の対外債務の金額を控除して正味資産の額を求め、その額を基に一株当たりの株価を評価する方法である(その具体的な算式は別表C1のとおりである。)。

本件においては、原告らも右の方法によって本件株式の価額を計算して申告しているのであるが、その計算の基礎とした昭和四〇年一〇月三一日現在の西村総本店の帳簿価額による純資産価額相続税評価額による純資産価額及び昭和三九年一一月一日から昭和四〇年一〇月三一日までの事業年度(以下「評価年度」という。)における利益金額に次のような誤りがあった。

(二) 帳簿価額による純資産価額

原告らは、西村総本店の確定決算に計上しなかった簿外資産として現金預金六三三万四六四四円及び決算の修正金額として固定資産の減価償却超過額の累計額一三八万三九六一円、営業費(広告費)計上額のうち未経過分の金額三万五〇〇〇円の各金額を総資産に加算し、加算後の総資産価額二億八二九三万六〇〇〇円(千円未満切捨)から負債額二億〇一三三万四〇〇〇円(千円未満切捨)を控除して純資産価額を八一六〇万二〇〇〇円としている。

しかしながら、西村総本店では、以前から売上の一部を帳簿から除外して多数の仮名又は無記名の簿外預金等を設定していたものであり、昭和四〇年一〇月当時には、原告らの認める前記六三三万四六四四円の簿外資産のほかになお簿外の銀行預金七三九七万三五五三円(右両者の合計八〇三〇万八一九七円の明細は別表B3のとおり)及び簿外の有価証券 (野村証券五反田支店の無記名株式投資信託)一四八万四〇四五円を有していた。したがって右各金額を原告の認める総資産価額に加算した額三億五八三九万三〇〇〇円(千円未満切捨)から負債額二億〇一三三万四〇〇〇円(千円未満切捨)を控除した一億五七〇五万九〇〇〇円をもって帳簿価額による純資産価額とすべきである。

なお、後記のとおり、原告らは右簿外預金及び有価証券の大部分が被相続人正の母西村末子に帰属するものであると主張するが、末子は、西村総本店から昭和三七年度に七八万円、同三八年度ないし四〇年度に各七二万円の役員報酬を得ているのみで、他に収入はなかったものであるから、右預金等が同人のものでないことは明らかである。

(三) 相続税評価額による純資産価額

原告らは、西村総本店の簿外資産を含めた総資産の相続税評価額を四億九五五〇万四〇〇〇円(千円未満切捨)と評価し、この評価額から負債額二億〇一三三万四六八二円と未納税金七八五万九九八〇円の合計額二億〇九一九万四〇〇〇円(千円未満切捨)を控除した二億八六三一万円をもって相続税評価額による純資産評価額としている。

しかしながら、前項で述べたとおり、西村総本店にはなお加算すべき簿外資産七五四五万七五九八円があり、また、未納税金は三七四万一一五〇円である。したがって、右簿外資産を原告の認める総資産価額に加算して評価すると、総資産額は五億七〇九六万一〇〇〇円(千円未満切捨)となるから、この評価額から負債額二億〇一三三万四六八二円と未納税金三七四万一一五〇円の合計額二億〇五〇七万五〇〇〇円(千円未満切捨)を控除した三億六五八八万六〇〇〇円をもって相続税評価額による純資産価額とすべきである。なお、右未納税金三七四万一一五〇円は、西村総本店が昭和四二年一二月二六日にした法人税についての修正申告により増加した、昭和三六年一一月一日から同三七年一〇月三一日までの事業年度(以下「昭和三七年度」という。)及び昭和三七年一一月一日から同三八年一〇月三一日までの事業年度(以下「昭和三八年度」という。)の法人税額(延滞税額も含む。)、事業税額及び都民税額の合計額で、本件株式評価の基準時となる昭和四〇年一〇月三一日現在未納であった金額である。その明細は、次表のとおりである。

(四) 評価年度の利益金額

原告らは、右利益金額を三三五万一〇〇〇円(千円未満切捨)としているが、評価年度中における西村総本店の簿外預金及び簿外有価証券の増加額は一四七六万七〇五八円であり(その明細は別表Bのとおり)、これは同年度中の売上除外による別口利益と認められたので、これを加算した一八一一万八〇〇〇円(千円未満切捨)をもって利益金額とすべきである。

(五) 以上の純資産価額(帳簿価額及び相続税評価額によるもの)及び利益金額に基づき基本通達の定めるところに従って本件株式の一株当たりの価額を評価すると、一一万一〇七二円となる(別表C2(1)、(2)参照)。

四  被告の主張に対する原告らの認否及び反論

1  被告の主張1について

被告が申告額に加算すべきものとした項目のうち(一)ないし(三)は認めるが、(四)の株式の評価誤謬額は争う。

本件株式の正当な評価額は、後記のとおり、一株当たり六万五四一二円、総額三二七〇万六〇〇〇円である。ところが、原告らは、一株当たり六万五五二七円、総額三二七六万三五〇〇円として申告したのであるから、総額で五万七五〇〇円の過大申告をしたことになる。それゆえ、本件における正当な課税価格の合計額は、原告らの申告した相続財産の価額の合計額に、被告主張の加算項目(一)ないし(三)の合計額二六一万二〇二四円を加算し、右本件株式の過大申告額五万七五〇〇円を減算した額によって計算した七三七二万九〇〇〇円(千円未満切捨)とすべきものである。

2  同2冒頭の事実について

原告らが本件株式五〇〇株を相続したことは認めるが、被告が主張する評価額は争う。

3  同2(一)について

本件株式が被告主張のような基本通達所定の方法によって評価されるべきものであり、原告らの申告もそれによっていることは争わないが、右申告の基礎とした純資産価額等に誤りがあるとの点は否認する。

4  同2(二)について

西村総本店が売上の一部を除外していたこと及び同店の負債額は認めるが、被告主張の預金及び有価証券が同店に帰属しているものであることは否認する。右預金等の存在並びに金額は知らない。右預金等のうち、別表B3の三和銀行尾山台支店の安藤光一名義の預金は被相続人正の弟西村勉のものであり、その余の預金等は正の母(西村総本店の創業者の妻)西村末子が長年にわたって勤倹貯蓄した同人個人のものである。右末子の西村総本店から受ける役員報酬額が被告主張のとおりであることは認めるが、末子の収入は西村総本店から受ける役員報酬だけであったわけではない。預金の帰属者とは、その預金を現実に支配、占有している者、すなわち通帳、証書、届出印鑑等を保持し自由に預金を処分している者をいうのであって、被告の主張する本件預金等の証書、印鑑等を保持していたのは末子であり、西村総本店ではないのであるから、この点からも被告の主張は失当である。

以上のとおり、本件預金等は、西村総本店に帰属するものではないので、帳簿価額による総資産価額は二億八二九三万六〇〇〇円、帳簿価額による純資産価額は八一六〇万二〇〇〇円を超えるものではない。

5  同2(三)について

負債額は認めるが、相続税評価額による総資産価額が四億九五〇〇万四〇〇〇円、相続税評価額による純資産価額が二億八六三一万円をそれぞれ超えるとの点及び未納税金の額はいずれも否認する。被告の主張する簿外の預金及び有価証券が西村総本店に帰属するものでないことは、先に述べたとおりであり、未納税金の額は七八五万九九八〇円である。

6  同2(四)について

利益金額が三三五万一〇〇〇円を超えるとの点は否認する。被告の主張する別口利益は、評価年度中の簿外預金及び有価証券の増加分が西村総本店に帰属することを前提とするものであるが、それが誤りであることは前述のとおりである。

7  同2(五)について

本件株式の評価額は争う。原告らが主張する純資産価額(帳簿価額及び相続税評価額によるもの)及び利益金額に基づき基本通達の定めるところに従って本件株式の一株当たりの価額を評価すると、六万五四一二円となる(別表C2(1)、(3)参照)。

第三証拠

一  原告ら

1  甲第一号証

2  証人和田金重、同西村敏男、同依田誠(第二回)

3  乙第一号証の一、二、第二号証、第三、四号証の各一、第五、第六号証、第七号証の山下陸奥男の署名押印部分、第八号証の一ないし四〇、第一一号証の一ないし三〇、第一六号証、第一八、第一九号証の成立はいずれも認める(第八号証の一ないし四〇、第一一号証の一ないし三〇、第一六号証、第一八、第一九号証については原本の存在及び成立も認める。)その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二号証、第三、四号証の各一、二、第五ないし第七号証、第八号証の一ないし四〇、第九、第一〇号証、第一一号証の一ないし三〇、第一二ないし第一九号証

2  証人伊藤行夫、同依田誠(第一回)、同緒方奎太、同柳沢信久、同上野幹雄

3  甲第一号証の成立は認める。

理由

一  請求原因1及び同2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  本件相続にかかる相続税の課税価格の合計額を算定するについて、被告の主張1(一)の借地権申告漏れ三〇万六六六六円、同(二)の借地権評価誤謬三〇八円、同(三)の家屋申告漏れ二三〇万五〇五〇円のほかに、西村総本店の本件株式五〇〇株の価額が相続財産の価額に含まれるものであることは、当事者間に争いがない。

三  そこで、本件株式の一株当たりの価額について検討すると、本件の場合に右株式の価額を評価する方法として、被告の主張する基本通達の定めるところに準拠すべきであること自体は、当事者間に争いがなく、争点は、専ら、右方法による評価の基礎となる西村総本店の昭和四〇年一〇月三一日現在の純資産価額(帳簿価額及び相続税評価額によるもの)及び評価年度の利益金額を幾許とみるかということにある。

1  帳簿価額による純資産価額について

(一)  まず、被告が簿外と主張する預金及び有価証券の存否について判断する。

(富士銀行渋谷支店分)

成立に争いのない乙第三号証の一及び証人依田誠(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証によれば、富士銀行渋谷支店に星清名義の普通預金(口座番号四〇〇六八)が存在し、昭和三九年一〇月三一日現在の預金額が三万一八〇八円、同四〇年一〇月三一日現在の預金額が三万二四四六円であることが認められる。

前掲乙第三号証の一、証人依田誠(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証及び同証言によれば、同銀行同支店に、昭和三九年一〇月三一日現在で上杉伸子名義外別表B2(1)イ記載の二九口の記名又は無記名の定期預金が存在し、その預金額合計が四九一五万円であり、また、同四〇年一〇月三一日現在では別表B3(1)イ記載の二九口の無記名の定期預金が存在し、その預金額合計が五八九五万五二四三円であることが認められる。

前掲乙第三号証の一、証人柳沢信久の証言により真正に成立したものと認められる乙第一七号証及び同証言によれば、同銀行同支店に、昭和三九年一〇月三一日現在で寒川輝名義外別表B2(1)ウ記載の三口の積立預金が存在し、その預金額合計が一二三万一〇五四円であり、また、同四〇年一〇月三一日現在では寒川輝名義外別表B3(1)ウ記載の四口の積立預金が存在し、その預金額合計が一六四万二四三四円であることが認められる。

(住友銀行渋谷支店分)

前掲乙第三号証の一及び原本の存在と成立に争いのない乙第一六号証によれば、住友銀行渋谷支店に石田淳名義の普通預金(口座番号二一六七九)が存在し、同三九年一〇月三一日現在の預金額が二三万五六〇三円、同四〇年一〇月三一日現在の預金額が二四万〇三八〇円であることが認められる。

証人依田誠(第一回)の証言により、真正に成立したものと認められる乙第一四号証及び同証言によれば、同銀行同支店に、昭和三九年一〇月三一日現在で山本弘名義外別表B2(2)イ記載の七口の記名又は無記名の定期預金が存在し、その預金額合計が九〇〇万円であり、また、同四〇年一〇月三一日現在では山本弘名義外外別表B3(2)イ記載の九口の記名又は無記名の定期預金が存在し、その預金額合計が一四〇五万三三四〇円であることが認められる。

(三和銀行尾山台支店分)

前掲乙第一七号証及び原本の存在と成立に争いのない乙第一八号証によれば、三和銀行尾山台支店に安藤光一名義の普通預金(口座番号八五〇八)が存在し、昭和三九年一〇月三一日現在の預金額が三七万六七一九円、同四〇年一〇月三一日現在の預金額が三八万四三五四円であることが認められる。乙第三号証中これと異なる記載部分は採用しない。

(住友銀行都立大前支店)

前掲第一七号証及び証人柳沢信久の証言によれば、住友銀行都立大前支店に井上俊彦名義の預金が存在し、昭和三九年一〇月三一日現在及び同四〇年一〇月三一日現在の預金額がいずれも五〇〇万円であることが認められる。乙第三号証中これと異なる記載部分は採用しない。

以上の各預金の合計額を計算すると、昭和三九年一〇月三一日現在で六五〇二万五一八四円、同四〇年一〇月三一日現在で八〇三〇万八一九七円となる。

(野村証券五反田支店分)

前掲乙第三号証の一及び弁論の全趣旨によれば、野村証券五反田支店に無記名の株式投資信託があり、昭和三九年一〇月三一日現在の額は二〇〇万円、同四〇年一〇月三一日現在の額は一四八万四〇四五円であることが認められる。

(二)  次に、以上の各預金及び有価証券の帰属について判断する。

(1) 成立に争いのない乙第六号証及び山下陸奥男の署名押印部分は成立に争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第七号証によれば、西村総本店では、昭和三八年九月ごろから所得を隠ぺいするため本店一階果実部及び同店二階パーラー部の売上の一部を除外するようになり、果実部においては毎日午後八時から同一〇時までの間の売上金全部を、また、パーラー部においては毎日の売上金の約一割をそれぞれ簿外にするという方法を昭和四一年末ごろまで続け、これによる売上除外額は、大体一日当たり、果実部で二、三万円、パーラー部で一万五〇〇〇円ないし二万円程度であったことが認められる。したがって、本件で問題となる昭和三九年一一月一日から同四〇年一〇月三一日までの事業年度においても、少なくとも年間一二〇〇万円を超える売上除外があったものと推定すべきである。もっとも、西村総本店が売上の一部除外の事実を認めて被告に提出した乙第五号証の年度別貸借表には、年間の売上除外額が毎年五〇〇万円台と記載されているが、前掲乙第六号証、成立に争いのない乙第八号証の一ないし四〇、証人柳沢信久の証言により真正に成立したものと認められる乙第九号証及び同証言によると、同店では昭和四二年からはパーラー部だけで前同様の方法で売上除外を続けていたところ、同年七月二八日から九月五日までの間の売上伝票から判明した右三三日間のパーラー部の売上除外額は六二万七〇〇〇円、これを年間に換算すると六九〇万円余となることが認められるのであって、昭和三九年から同四〇年当時には前記のように果実部でも売上除外を行っていたことを勘案すれば、右乙第五号証の記載は信用することができない。

そして、右認定の売上除外額が当時資産の購入その他の用途に費消されたと認めることのできる的確な証拠は見当たらないから、少なくともそれに近い額は西村総本店の簿外預金等として残されていたものと推測される。

(2) 証人依田誠(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる乙第一二号証、同第一五号証、同証人及び証人柳沢信久の各証言によれば、被告は、昭和四二年九月ごろ西村総本店の昭和三九年一一月一日から同四〇年一〇月三一日までの事業年度の法人税について税務調査を行った際に、前記(一)で認定した各預金及び有価証券が右の売上除外による同店の簿外資産であるとの判断から、同店代表者西村敏男らの出頭を求めたところ、同人らの持参した仮名の印鑑が前記各無記名預金の届出印鑑と符合していたこと、また、原告らが西村勉の預金であると主張する前記三和銀行尾山台支店の安藤光一名義の預金は、同銀行の行員が西村総本店に赴いて現金を受領してきたものであることが認められる。

(3) いずれも成立に争いのない乙第二号証、同第四号証の一及び証人緒方奎太の証言によれば、被告は、昭和四四年一一月に前記各預金及び有価証券が西村総本店の簿外資産であるとの認定のもとに同店の前記事業年度の法人税について更正処分をしたところ、これに対して同店から異議申立及び審査請求があったが、これらの不服申立において、同店は右預金等の一部が自己のものであることを認めており、特に更正にかかる事業年度内の預金等増加分については、六二一万〇五二三円中五九二万六六二三円が同店のものであるとしていることが明らかである。

(4) 証人依田誠(第一回)、同柳沢信久、同西村敏男(後記採用しない部分を除く。)の各証言によると、原告らが本件預金等の大部分の帰属者であると主張する西村末子は、昭和四〇年当時六七、八歳で、肝蔵の手術をしたり、血圧の状態が不良であったりして、家のなかに引きこもっており、毎年西村総本店の会長として同店から支給される七二万円ないし七八万円の役員報酬のほかには、多額の預金をしうるほどのまとまった収入はなかったことが認められる(右役員報酬の支給の点は当事者間に争いがない。)。右証人西村敏男は、末子が長年の勤倹貯蓄により六〇〇〇万円以上の個人預金を有しており、年間約一〇〇〇万円の預金金利収入があった旨供述しているが具体性を欠き、にわかに措信しがたい。

以上の諸点を総合考慮すると、先に認定した各預金及び有価証券は、西村末子又は西村勉のものではなく、すべて西村総本店の売上除外を資金とし同店に帰属するものであると認めるのが相当であって、前掲乙第四号証の一、証人西村敏男、同和田金重の各証言中右認定と抵触する部分は採用することができない。

原告らは、末子が右預金等の印鑑類を所持していたことをもってその主張の根拠とするが、上来認定した事実関係のもとでは、仮に末子が右印鑑類を所持していたとしても、その一事だけで同人を本件預金等の帰属者とすることができないことは、いうまでもない。

(三)  以上のとおり、西村総本店には昭和四〇年一〇月三一日現在で合計八一七九万二二四二円の簿外預金及び有価証券があったと認められ、これらは同店の総資産を構成するものであるところ、原告らが、うち六三三万四六四四円のみを認めて帳簿価額による総資産価額を二億八二九三万六〇〇〇円としていることは当事者間に争いがないので、これに差額七五四五万七五九八円を加算すると、帳簿価額による総資産価額は三億五八三九万三〇〇〇円(千円未満切捨)となる。したがって、帳簿価額による純資産価額は、右総資産価額三億五八三九万三〇〇〇円から当事者間に争いのない負債額二億〇一三三万四〇〇〇円(千円未満切捨)を減算した一億五七〇五万九〇〇〇円である。

2  相続税評価額による純資産価額について

原告らは、相続税評価額による純資産価額を四億九五五〇万四〇〇〇円(千円未満切捨)としているが、前項で述べた加算すべき簿外預金及び有価証券の額七五四五万七五九八円を加えると、右総資産価額は五億七〇九六万一〇〇〇円(千円未満切捨)となる。また、原本の存在及び成立に争いのない乙第一九号証によれば、西村総本店の昭和四〇年一〇月三一日現在における未納税金の合計額は、次表のとおり、三七四万一一五〇円であって、右金額を超えては存在していなかったことが認められ、証人和田金重の証言は右認定を動かすに足りない。

したがって、相続税評価額による純資産価額は、前記総資産価額五億七〇九六万一〇〇〇円から、当事者間に争いのない負債額二億〇一三三万四六八二円と右未納税金額三七四万一一五〇円の合計額二億〇五〇七万五〇〇〇円(千円未満切捨)を減算した三億六五八八万六〇〇〇円である。

3  評価年度の利益金額について

前記認定のとおり、昭和三九年一〇月三一日から同四〇年一〇月三一日の間における売上除外による簿外預金及び有価証券の増加額は一四七六万七〇五八円である。したがって、これを原告らの認める利益金額三三五万一三二二円に加算すると、利益金額は一八一一万八〇〇〇円(千円未満切捨)となる。

4  以上認定した純資産価額(帳簿価額及び相続税評価額によるもの)及び利益金額に基づき、当事者間に争いのない基本通達の定めるところに従って本件株式の一株当たりの評価額を算出すると、被告の主張するとおり一一万一〇七二円となる。

四  右のとおりであるから、本件株式五〇〇株の価額は合計五五五三万六〇〇〇円であって、原告らが申告した三二七六万三五〇〇円(申告額については当事者間に争いがない。)との差額二二七七万二五〇〇円は、株式の評価誤謬として本件相続財産の合計額に加算すべきものである。

そうすると、本件における正当な課税価格の合計額は、原告らの申告した課税価格の合計額七一一七万四五〇〇円に、当事者間に争いのない前記借地権申告漏れ三〇万六六六六円借地権評価誤謬三〇八円、家屋申告漏れ二三〇万五〇五〇円と、右認定の株式評価誤謬二二七七万二五〇〇円を加算した九六五五万九〇〇〇円(千円未満切捨)であって、この範囲内でされた本件各課税処分は適法である。

五  よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 中根勝士 裁判官 菊池洋一)

別表A

一 本件課税処分における相続税の総額

二 各原告別の課税処分

1 原告 西村翠

2 原告 西村純一

3 原告 西村正之

4 原告 西村典子

別表B

1 別口利益の金額

2 昭和三九年一〇月三一日現在の簿外預金の明細

合計額 六五、〇二五、一八四円

(1) 富士銀行渋谷支店 五〇、四一二、八六二円

ア 普通預金

イ 定期預金

ウ 積立預金

(2) 住友銀行渋谷支店

ア 普通預金

イ 定期預金

(3) 三和銀行尾山台支店 三七六、七一九円

ア 普通預金

(4) 住友銀行都立大前支店 五、〇〇〇、〇〇〇円

通知預金

3 昭和四〇年一〇月三一日現在の簿外預金の明細

合計額 八〇、三〇八、一九七円

(1) 富士銀行渋谷支店 六〇、六三〇、一二三円

ア 普通預金

イ 定期預金

ウ 積立預金

(2) 住友銀行渋谷支店 一四、二九三、七二〇円

ア 普通預金

イ 定期預金

(3) 三和銀行尾山台支店 三八四、三五四円

(4) 住友銀行都立大前支店 五、〇〇〇、〇〇〇円

通知預金

別表C

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